2015年7月6日

さらば愛しき沼よ


頼まれごとがあって、ある日の俺は、黒衣森・南部森林の沼沢地を訪れた。

くだらない用事だ。
いつものようにやれば、すぐに済む。

そのはずだった。


どうやら依頼人の話を信じすぎちまったようだ。

相手の思わぬ抵抗に遭い、期せずして苦戦を強いられてしまった。


要するに、やはりくだらない用事だったってことさ。



とはいえ俺もそこらのヒナチョコボじゃあない、こう見えていっぱしの冒険者だ。

そうだな、「酒瓶の蓋が上手く取れなかったときよりいくらか苦戦した」と言えば、敵を褒めすぎなくらいだろうな。


だからもしそのときの俺を見ているヤツがいたならば、そいつの目に映る俺は、
腹ごなしにひと汗かいたような顔だったに違いない。

そして涼しげに敵の死骸を見捨てて立ち去った。
そう見えたはずだ。


そのとき俺の考えていたことは、そうだな、じっとりと身体にまとわりつく沼地の湿気が癪に障りだした頃だ。

こいつをさっさとどこかに脱ぎ捨てたい。そう思った。たぶんな。



森を抜けた俺は、東ザナラーンのウェルウィック新林へたどり着いた。

すでに夕闇の迫る時刻になっていた。


からりと乾いた風がハイブリッジ脇の風車を揺する。

身体や荷物についた湿気は吹き飛んだ。

ついでに俺の頭の中から、死骸の顔も、依頼人の顔もどこかへ消し去ってくれた。
文句ない気分だ。

今夜はあの建物で休ませてもらうとしよう。
なに、屋根さえありゃどこだっていいのさ。



ドス黒い陰謀を象徴するようなウルダハの街だが、これだけ離れたところから見れば、
ただのとげとげしい山に過ぎない。

今はゆっくり旅をしているようでも、街に戻れば忙しい冒険者生活に逆戻りさ。

どうせまた陰謀に揉まれなきゃならないんだ。

今日のひとときくらい、単なる景色として、街を見下ろしてやるさ。



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